研究ノート

芸術による教育の会研究部長:佐藤かよこ

芸術による教育の会副理事長:寺尾憲


子供の知的認識の特性

いかにアニミズム的か

 ビアジェは、子供の科学的認識の発達を心理学の立場から分析し、内外の著名な種々の分野の科学者を集めて研究しました。その結果、幼児の思考様式は「アニミズム的(生命化、擬人化)思考に基づいている」ということを見い出しました。

 子供の思考は自己中心的であり、自己を拡張して他のものに自己と同じ生命を与え、体感を通して現象を理解していきます。

 残念ながら世の中の大部分の親は、幼児に現象や物を教えるとき、表面的な固有名詞または科学的な因果関係を教えているようです。幼児の自己拡張本能をふまえて、「アニミズム法」で教えている親はきわめて少ないようです。

 今回は、幼児に『風』という現象を理解させるために、ある幼稚園の年長クラスで試みたことを御紹介いたします。以下に示したものは『風』をテーマにして、保育の中での先生と生徒との間でかわされた会話の一例です。

*風はどこから来るの?

「北海道から」「北の方から」「雲から」「風の国から」「雲の上から」「宇宙から」「空から」「風のお家から」「雷様といっしょに住んでいる」「雲の上に住んでいる」「台風の中から」「扇風機から」

*風って見たことある?

「はっぱがゆれる」「風車がまわる」「気持ちが良い」「目にスーツと入ってくる」「はっぱが踊ってパーティをしている」「透明だから見えない」

*風は誰と住んでいるの?

「風のお父さんとお母さん」「雷様と」「雲と」

*風は何を食べているの?

「雲」「雷」「雨」「空気」「雲のないときはお空」

*あたたかい風ってどうして? 冷たい風は?

「太陽さんとお友達の風だから」「雲や雨さんとお友達だから」

*どんな風さんがあるの?

「竜巻は風の王様」 「やさしい風は女王様」 「しゃぼん玉をすれば風をとじこめられるよ」

*窓にスズランテープを結んで子供達の反応を見る

「風さんが来た」「風さんとあくしゅしようよ」「風さんと遊ぼうよ」「風さんが遊びに来れるように窓を開けといてね」「風さんにお手紙を書いてふうせんで飛ばしたら届くかな?」

*しゃぼん玉を行って反応を見る

「しゃぼん玉の色は風の色だよ」「しゃぼん玉が飛ぶのは風がおすもうをしているからだよ」「しゃぼん玉は風のふうせん」

*風輪で遊んだときの反応

「ずっと置いておいたら風がいつ来るかわかるね」「風さんて力持だね」「すごく回るよ、強い風さんだね」「風輪が○○ちゃんのところに回って行ったから○○ちゃんが好きなんだよ」

*風のいたずらってどんなこと?

「自転車を倒す」「髪の毛をたたせる」「お絵かきの紙をとばす! 「雨をふらせる」

*風の良いところは?

「ふうせんを飛ばす」「風車を回す」「優しい風は涼しい」「紙飛行機をとばす」「こいのぼりを飛ばしてくれる」

*身体表現で「風になる」……ロールプレイ

強い風、弱い風をピアノに併せて行う。ぶつかって泣いてしまう子供が出る。

「風はぶつかりあうか?」という問いに、「風は通り抜ける」と答え、友達とぶつからないように体を横にして友達との間を通り抜けていた。女の子は数人のグループをつくって手をつなぎ、その間を風の子の男の子が上手に通り抜ける。

「風さんは夜はどうするの?」という問いかけに「じっとして寝る」と言ってそこにしゃがみこむ。「吹きながら寝る」と言ってスピードをゆるめて寝ている感じを出していた。

*風にも幼稚園があるか?

「ないよ」「あるよ、風組とか雨組とか雷組とか」、「ぼくはその夢を見たことがあるよ」(この子供はそれまで遠慮がちだったが、夢と言う言葉で自信をつけたようで以後はハキハキと発言した。)

「風の幼稚園では何をして遊ぶのか?」…… 「いたずら」「台風ごっこ」「どちらが紙を遠くに飛ばすか」「かくれんぼ」。

 「かくれんぼで、どうやってさがすの?」……「風のあるところをさがす」「風同志だと見えるんだよ」

 幼児にとって、ある現象をアニミズム的思考で、体感を通して理解することが最も重要なことです。まわりとのつながりにおいて「現象」を知ることで、ものの因果を理解できる子供になるのです。そして最も重要なことですが、アニミズム的思考により「現象や物」に自己の情感を投影し、命を与えることによって、命の大切さと尊さを自然に身につけていくのです