「子どもの絵について学ぶ」基礎編【子供はなぜ絵を描くのか?】〈子供の絵と知能〉〈子供の絵と心〉について

はじめに

1954年、美術家の故佐藤恵一と心理学者の故佐藤かよこご夫妻によって芸術による教育の会が設立されました。芸術による教育の会が「芸術の教育」ではなく「芸術による」である所以は、英国のハーバート・リード(HerbertRead)の著書「芸術による教育」にご夫妻が大きな感銘を受け、「美術を通した教育こそが全ての教育の根幹であり、最も優れた教育である」という信念の上にあります。

任意団体として始まった芸術による教育の会は、その後「美術を通しての教育」を実践する多くの美術家を迎え入れ成長します。そして有限会社芸術による教育の会となります。

芸術による教育の会の寺尾憲社長は、同会の元生徒であり、佐藤かよこの愛弟子の一人です。

寺尾は工学博士で慶應義塾大学工学部の講師を務めながら、佐藤かよこから「美術による教育」を様々な心理学を通して学び、自らも美術教育研究者として同会の美術家たちに指導してきました。

今回、1986年に発刊された佐藤かよこと寺尾憲の共著「子供のこころは絵でわかる」の中から「第1章:子供はなぜ絵を描くのか」を転載し紹介いたします。

子供の描く絵とこころについて広く多くの皆様にご理解いただき、子供たちの健やかな成長にお役立ちいただけたら幸いです。

『子供の心は絵でわかる』 / 著:佐藤かよこ・寺尾憲

第1章 子供はなぜ絵を描くのか

子供の生活は経験と表現の繰返しである。まだ文字が充分に書けない、又言葉の云いまわしが充分でない幼児にとって、意志や感情を表わすのに造形活動がもっとも適している。幼児の教育でもっとも大切なことは人間のもっているすべての能力(肉体的、感覚的、精神的種々の要素)を発達させることである。

幼児期はどんな子供でも文字を覚える前に絵を描き、絵を描くことはどんな子供でも好きなのが普通である。

子供は、文字を書く以前にまず絵を描くものであることを人類発達の歴史がそれを証明している。子供の絵は子供の生命力と直結し、その精神構造や情緒の発達と結びついている。

しかし、子供は最初から自分の考えや感情を意図的に表わそうとしているのではなく、そうした段階に入る前にクレヨンとか、鉛筆とかを紙や床などになすりつけ、そこに自分の手の運動の痕跡が表われることに興味をもつことからはじまるのである。

即ちこの材料体験の面白さが進んでメラメラ描きがはじまり、次にその中から形らしいものが出てくるようになるが、これが子供の知的興味の表われであるとして心理学者の研究対象となり、子供の絵を手がかりに、子供の知能や情緒が解明されていったのである。

「カンディンスキー」の抽象画のような3歳児の絵

1-1子供の絵と知能

最初、心理学者は子供の絵を、知的発達の面からみて子供の知能の程度を知ろうとし、児童画による知能検査法をつくり出しました。

その方法は、子供に人物画を描かせ、それがどの程度人らしく描かれるか、その度合によって子供の知能を判定しようとしたもので、例えば、幼児の絵に対し、形が巧いとか下手にかかわらず、人間らしく、又は人間の一部分を表わしていると認めるものに対して点を与え、だんだん精密度が加わることに対して一点一点点数が加算されるといった方法をとり、その結果知能年齢を決定し、知能指数を算定したのです。

これを最初に創案した人は、英国のフローレンス・グディナフ(Florence Goodenough)であり、1926年に「描画による知能測定」という著書を出版し、D-A-Pと称する心理学的知能テストとして広く使われるようになりました。

1-2子供の絵と情緒

子供が最初描き出すメラメラ描きについて、初期の心理学者は、それは手の運動の跡への知的興味の表われであるとし、又は模倣であるときめていた。

しかし子供が絵を描くということは、この知的側面だけでなく、子供の情緒の表出としても見るべきであると考えられるようになってきた。

こうした面が推進されてきたのは精神分析の発達によるものであり、子供の絵は単なる意識的表現ではなく、それ以上に無意識的な深層心理に動かされていると考え、子供の絵を手がかりに子供の心理がいろいろと研究され、実証されるようになってきたのである。

先に記述した1926年にフローレンス・グデイナフの人物画テスト(D-A-P)、1948年に於るバックの家・木・人物画テスト(H-T-P)、1970年に於るバアンズとカウフマンによる動的家族描画法(K-F-D)、1940年代日本にはじめて紹介されたロールシャッハテスト、1935年にマレー及びモルガンによって創られた絵画統覚検査法(T-A-T)、このT-A-Tの児童版であるベラックのC-A-T、コッホによる樹木画テスト(バウム・テスト)等、絵画を使用したテストが数多く研究され、人間の心の奥底にひそんでいるものを解明する試みがなされたのである。

その論理的根拠は、絵はそれを描いた人の無意識が絵画のもっている諸要素(線、形、色、構図、主題)等に投影されるものであるということに基づいている。

英国のハーバート・リード(Herbert Read)は「芸術による教育」という著書の中で精神分析者アイアン・サッティの言葉を引用して「芸術、科学、宗教等のあらゆる社会活動を含めて子供の表現は母からの分離の回復への努力である」と云っている。

子供は最初、母の胎内にあって母と一体であるが、誕生によって母と分離し、一つの個体として存在することになる。

しかし授乳を通して母の乳房にしがみつき又、母に抱かれることによって、かよわい子供もどうにか安定を得ることが出来ているのである。

月日がたち、やがて離乳期を迎えることによって完全に母と訣別することになるのであるが、離乳後のさびしさと不安は、子供にとって大変なもので、指しやぶりが続いたり、毛布やタオルにしがみついたりするのもこの時期で、意味のないメラメラ描きやぬたくり画が始まるのも丁度この時期である。

してみれば子供が絵を描くという行為は、母と分離していくさびしさの埋め合せであり、そのさびしさを回復しようとする悲しい努力でもある。

この時期の子供の絵は意味のないメラメラ描きであり、ぬたくりで汚すだけのものである。

この汚すということによって子供は母の関心を呼びおこし、母を引き寄せようとしていると云われている。

もちろん子供はわざとしているのではなく、子供自身の無意識がそうさせているのである。

誕生以来、子供は汚すという行為が母をひきつけるということを経験を通してよく知っているのである。

それは、おむつが汚れて気持がわるいので泣くと、母はすぐ来てとり替えてくれる。

顔や手足が汚れると綺麗に洗ったり、拭き取ったりしてくれる。だから母を引き寄せ、かまってもらいたければ汚せばいいのである。

この無意識の行為は、日常家庭の中や幼稚園などで見うけられることである。

子供が3~4才になり、下に赤ちゃんが生れたりすると、それまでは排便も排尿もきちんと出来た子供が急に退行現象をおこし、おもらしをしたり、急に人が変ったように乱暴な振るまいをしたり、わざといたずらをしたり、黙りこくって拒否的になってしまうという現象が家庭の中や幼稚園の中で見受けられるが、さして珍らしいことではない。

これは母親の関心を求めようとする無意識的意図であり、子供の最初の描画もこの意味に於て画面を汚すことにより母からの分離を回復する無意識的努力であるといわれる訳である。この状態の子供に、K-F-D(動的家族描画法)を適用してみると、よくベットにねている赤ちゃんの傍に、ゴミ箱や屑かごが描かれるが、これは自分はお姉さん、お兄さんになったのだからという立場の理性的な認識を持つと同時に、今まで自分が占領していた母の胸や膝の上を別の者が一人占めにしているという現象が、感情の面では納得出来ず、許せないのである。

即ち頭の中では姉、兄という立場がわかり、赤ちゃんを可愛いと思う反面、感情の面では母の胸を奪った憎らしい奴なのである。

この時期の子供の心の中に於るこの両極葛藤(アンビバレンス・愛と憎しみ)は大変なものであり、今まで意図的にきちんときれいに絵を描いていたものが、急にあともどりしたように、描いたものを他の色でぐしゃぐしゃに消したり汚したりすることはよく見受けられることである。

これは母を呼ぶ汚しの行為であると共に、無意識の中に於る怒りや憎しみ、攻撃の発散でもある。

絵の上でそうすることによって、その攻撃や怒りの心的エネルギーは、外部に実際に害を与えることなく、ぐしゃぐしゃに汚すことによって消滅してしまうのである。

即ち子供は自らの手により、自らの力で精神衛生を計っているものであるが、この汚れたぐしゃぐしゃ描きをみて、心ない大人たちは下手だとか、サマになっていないとかいってケナしてしまうことが多いのである。

子供にとっては汚しているつもりはない

1-3子供の心と絵

子供が自由に描いた絵は無意識の投影であり、その無意識の心理がそのまま画面に表われる。満足な安定感をもつ子供の絵は明るくいきいきとした要素に満ち溢れ、不安定な心を持つ子供の絵は自然に暗く汚れ乱雑になる。

子供の絵には子供の心がかくされている。

子供の絵は子供の心のレントゲン写真でもある。この子供の絵を手がかりに、多くの精神分析学者、心理学者が、かくされた心のメカニズムの解明にとりくんできた。それを基に章を追ってそれらの相関関係による分析を説明していきたいと思う。

即ち、子供の絵の出発は知的興味の表出とさまざまな情緒の発散であり、甘えたい感情と反抗の表われであり、やがて子供は絵を描くことから自己表現の喜びを知って、甘えと反抗から脱却していくのである。

甘えは美を求め、美を受けいれ、愛する感情に昇華し、反抗と攻撃は新しいものを工夫し、創り出す意欲へと昇華するとされている。

このような依存的態度や攻撃的態度は絵を描くという行為の中でのみ解消され、昇華されていくものであり、そうした適切なプロセスを経てこそ、はじめて知性、情緒、意志が調和した人格の形成が達成出来るのである。

以上、子供の絵とこころについてを取り上げました。

子供の絵には「こころ」をベースに「知能」の発達があらわれます。

子供の絵には発達段階というものがあります。

子どもの絵の発達段階とは、発達に伴う子ども達の絵の変化を、年齢と段階によってわかりやすく示したものです。



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PROFILE

屋嘉部 正人
屋嘉部 正人芸術による教育の会GM
沖縄生まれの大阪育ちの千葉県野田市在住
多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
横浜美術大学絵画コース非常勤講師

大学四年生から芸術による教育の会で美術教室教師としてアルバイトを始め、大学卒業とともに同会に入社。

美術家として個展やグループ展など多数発表を続け、新制作協会に所属。

50歳を機に人生をリセット
・右利きを辞めて左利きとして生まれ変わる
・やりたくてやらなかったことを全てやる
52歳で新制作協会会員を退会
53歳でこれだけはやめられない一番好きなお酒をやめる
・芸術による教育を全国に広める伝道師として芸術による教育の会GMとなる
・「紙コップのインスタレーション」を各地で実施。