創造的な美術活動のための「枠(ルール)」

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「アート表現は何をやっても自由」ではありません。

「アート表現は何をやっても自由」などという人がいますが、もしそうなら恐ろしいことです。

美術館に行ったら、いきなり絵の具を頭からぶちまけられ、「これが私の表現だ!」〉なんて言われたら最悪ですよね。

アートは、安全という枠内において自由なんですよね。

鬼ごっこやかくれんぼ・・またはすべてのスポーツには、まず安全を保障する枠(ルール)がありますよね。

アートも同じです。

美術教室でのある日のレッスンで、年少さんの男の子がお隣の女の子のスケッチブックにも描き始めました。

描かれちゃった女の子がびっくりして泣き出しちゃいました。

安全と思っていた枠の中に他の誰かが入ってきたのですから、びっくりして泣き出すのは当然です。

「あれあれ・・どうしたどうした??」と言って、近寄ると男の子はキョトンとしています。

その表情からは全く悪意が感じられません。

私は、次の瞬間「あっ!!そうか!!」とその理由に気づきました。

その男の子は、美術教室に入会したばかりで、スケッチブックに描くのは初めてでした。

そして、前回のレッスンは「共同制作」で、みんなで大きな画用紙に街をテーマに描いたのでした。

その男の子はみんなで街を描いたときのように、お隣の女の子のスケッチブックにも描いたのです。とても自然の行為です。

悪いのは教師の私であって、その男の子ではありません。

「ごめんね!先生みんなにちゃんとお話しできていなかったね。」

そして、私は心を込めて二人に謝りました。

自分の雑な指導に情けなくなります。

大人が当たり前と思うこと、子ども達にとっては当たり前じゃないことが多くて、子ども達を通して教わることばかりです。

美術教室の先生の仕事のうち教えることは1割もないかもしれません。9割の仕事は「創造的な場」を提供することだと思います。

子ども達が創造的な時間を過ごすには、まず教室の環境が安全で安心なムードで包まれた場であることが大切です。

そして、子ども達が美術活動を通してお互いに程よい刺激と良い影響を受けあえるムードであること。

それらのムードに包まれたなら、子ども達は自由に生き生きと主体性を持って創作活動を楽しみます。

美術教育においては、教師が場をコントロールし過ぎたり、教師自身が主体的になり子どもをある方向に誘導したりしてはいけません。

例えば、誰が見ても上手に描けていると感じる作品を取り上げて褒めることは、明らかに一方向への誘導につながります。

(こういうふうにあなた達も描きなさい)と暗示しているようなものです。

仕上がった作品を見た保護者も、その上手な作品に感動して褒めます。

「○○ちゃん、すごいねえ!じょうず!!」

これにより、ほとんどの子ども達が劣等感を持つことになります。

教師はプロです。

誰にでも褒められるいわゆるじょうずな絵ばかりを取り上げるのはプロの仕事ではありません。

一人一人の表現の違いに気づき、子ども達一人一人の創意工夫したところや個々の想いにプロの立場で共感して、プロとして子どもの代弁者となるべきです。

子ども達が自信を持って生き生きと創作に集中できるためには、教師が子ども達の「見て見て・・聴いて聴いて!」に振り回されるくらいがちょうどいいのです。

子ども達は、作品を褒められたい以上に作品を通してコミュニケーションをしたいのです。

私たちの目的は「芸術の教育」ではありません。「芸術による教育」です。

美術は目的ではなく、手段です。

美術を通して、他者との違いを認め自己肯定感を育み、心の安定と柔軟な思考力を育むことこそが目的です。

指導に自信のない教師や子ども達を信じていない教師は、ガチガチの枠(ルール)を作って教師としての自分の立場を守ろうとしたり、子ども達をレールから落ちないように、またはある方向へ導こうと過干渉になりがちです。

そこから生まれるものは自己肯定感でもなければ、柔軟な思考力でもありません。

教師への従順さか反発心または劣等感ではないでしょうか。

創造的な美術活動のための「枠(ルール)」は教師が指導しやすくするためにあるのではなく、子ども達が安心して生き生きと自由に創作を楽しむためにあるのです。

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教師が作る「子ども達への自由な表現のための枠(ルール)」は、少し緩いくらいがちょうどいいと思うのです。




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PROFILE

屋嘉部 正人
屋嘉部 正人芸術による教育の会GM
沖縄生まれの大阪育ちの千葉県野田市在住
多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
横浜美術大学絵画コース非常勤講師

大学四年生から芸術による教育の会で美術教室教師としてアルバイトを始め、大学卒業とともに同会に入社。

美術家として個展やグループ展など多数発表を続け、新制作協会に所属。

50歳を機に人生をリセット
・右利きを辞めて左利きとして生まれ変わる
・やりたくてやらなかったことを全てやる
52歳で新制作協会会員を退会
53歳でこれだけはやめられない一番好きなお酒をやめる
・芸術による教育を全国に広める伝道師として芸術による教育の会GMとなる
・「紙コップのインスタレーション」を各地で実施。